歯科の治療には、保険がきく診療(保険治療)と保険がきかない診療(保険外治療・自費治療・自由診療)があります。保険診療と保険外診療は何が違うのかについてご説明します。
歯の保険診療と保険外診療
歯科治療には保険診療と保険外診療がある
国民健康保険に加入している場合、保険が適用される治療(保険診療)を受けたときに現役世代の患者さんが負担する金額は3割です。この負担割合は歯科もそれ以外の病院にかかった時も同じで、診療後に医院の窓口で支払います。
保険診療を行うか、保険外診療行うか、その両方を行うかは、クリニックごとに独自に定めていますが、多くの歯科医院では保険診療と保険外診療の両方を行っています。
保険診療で行う治療に関しては、保険診療で行える治療法、治療内容、治療の回数、使える素材や器械などが細かく決められており、患者さんの希望があったとしても、それ以外の事は認められていません。
歯科治療での保険診療=必要最小限の治療
日本の国民皆保険制度は欧米と比べると、診療報酬がかなり低い金額に抑えられています。欧米の医療では歯医者での治療費は高額で、日本の10~20倍もかかる場合があります。つまり、患者さん側の費用の負担が少ない代わりに、歯科医師に支払われる保険の治療費も少ないということになります。
「保険の範囲内で大抵のものは治せるだろう」と思われるかもしれませんが、残念ながら保険治療では治せない(行うことが出来ない)内容もありますし、特に歯科においては保険での治療と保険外での自費治療とでは、治療の内容(使用可能な材料や料金)がかなり違っています。
例えば、「ある程度噛めるようになればそれで良い」とおっしゃる患者さんであれば保険診療で満足されますが、「仕上がりをもっときれいにしたい」「もとの歯と同程度の機能性をもたせたい」とおっしゃる場合は、使用する歯科材料や技術の点で、保険外診療でなければ出来ない場合もあります。
また、歯周病や虫歯が進行して歯を抜かなければならなくなったときに、「歯を抜くのには保険がきく」けれど、「できる限り歯を残すための根管治療を受ける」のであれば保険はききません。このように、治療の内容によって保険がきくかきかないかが決まり、患者さんは治療を受ける際に、歯科医師と相談しながらどちらの治療を受けるか選択することが出来ます。
国民皆保険制度があるのに虫歯患者が多いのは何故?
歯科における保険治療は、痛みを止めて噛めるようにするための必要最低限の治療です。そのためセラミックの前歯や機能性の高い入れ歯、矯正治療、インプラント治療は保険がきかない自由診療となります。
日本には多くの歯科医院がありますが、世界的に見ても虫歯患者の多い国です。その理由は以下の二つです。
1.予防という概念がなく痛くなるまで歯医者に行かない人が多かった
今では、多くの歯科医院が定期健診を行っています。しかし歯の治療が終わってからも定期健診に通うようにすすめられるようになったのは、ここ10~15年くらいの間の出来事です。それ以前は、歯医者は歯が痛くなったら行くところというのが一般的な考え方で、痛くも何ともないの歯医者に行く人は殆どいませんでした。
当時は予約制の歯医者は少なく、待合室にはいつも大勢の患者さんで溢れ、2時間位待たなければ治療を受けられなかったというのも、歯医者が敬遠される理由の一つでした。
もう一つの大きな理由は、日本の保険診療に予防歯科という概念がなかったからです。保険で受けられるのは治療のみなので、歯が悪くなってから歯医者に行くのはごく当たり前のことでした。
一方、予防歯科の先進国であるスウェーデンやアメリカでは、予防歯科という概念が定着しています。歯に痛い所がなくても、1年に数回は歯医者に通って定期健診を受けてお口の中に悪いところがないかチェックしてもらうのです。
近年では多くの歯科医院が予防歯科に力を入れるようになり、歯周病の初期治療という名目で必要最低限の歯のクリーニングを行うようになりました。実際、ほとんどの方が歯周病にかかっているため、初期の段階での治療は大切です。その時に虫歯予防や歯周病予防の必要性を患者さんにお話しするようになりましたので、定期健診に通う方が増えてきました。
しかし定期健診に通っておられない方も、まだまだおられます。そのような方たちの中には、歯の悪い所が何か所かでて、噛めなくなってきたり、見た目が悪くなってきて初めて歯医者に通うようになる方もおられます。
また、歯の治療が終わったら歯医者通いをやめてしまう方もおられます。虫歯や歯周病にならないように定期健診を受けることで、天然の歯を長く使えるようになりますし、長い期間で考えると、歯が悪くなってから治療を受けると高額な治療になりやすく、年に4回程度の定期健診を受けて頂く方が、結果的に歯の治療費が安く済むということもあります。
2.保険での治療が普通であるという認識
歯科での保険治療には、治療方法や治療に使う材料などに制限があり、それ以外の治療は行うことができません。そのため保険の材料である白いプラスチックを使った詰め物・被せ物は、強度が弱く、変色しやすく、耐用年数は短くなります。
虫歯の保険治療といえば銀歯を思い浮かべる方が多いと思いますが、銀歯は歯と詰め物・被せ物の間に隙間が生じやすいため、二次虫歯になりやすいという欠点があります。
歯の治療を繰り返すと、歯を削る部分が大きくなり、神経を取る治療が必要になって、その後何年かすると抜歯しなければならない状態へと進んでしまいます。それを避けるには自費診療で使われている、二次むし歯になりにくいセラミックなどの良い素材を使わなければなりません。
日本の保険治療の治療水準は数十年前のものです。保険診療で使用する金属は金属アレルギーを引き起こす可能性があり、日本以外の各国では使われていません。
保険で治療出来る?出来ない?
治療内容によって保険で可能なものと自費診療になるものがあります。
保険診療
- 虫歯治療の詰め物・被せ物・・銀歯、コンポレットレジン(部位や範囲によって自費診療になる場合あり)
- ブリッジ(銀歯)
- 入れ歯(材料による)
- 定期健診
保険外診療(自費診療)
- 矯正
- インプラント
- ホワイトニング
- 虫歯治療の詰め物・被せ物・・セラミック、ジルコニア、金など
- ブリッジ・・セラミック、ジルコニアなど
- 入れ歯(材料による)
- マイクロスコープを使用した根管治療
- コンポレットレジンでのダイレクトボンディング
歯の保険診療と保険外診療についてのQ&A
歯科での保険診療とは、公的な健康保険制度の範囲内で行われる歯科治療のことで、保険外診療は、保険のきかない歯科治療のことです。
歯科医院では保険診療と保険外診療(自由診療)の両方を行っている場合が一般的ですが、一部の歯科医院では保険外診療のみを行っています。診療予約を入れる際に保険治療が可能かどうか確認しておきましょう。
保険診療では、保険制度に基づいて治療内容や使える器具や薬が決まっています。そのため審美的な治療や高度な治療などは保険の適用外となる場合があります。
まとめ
永久歯は一度失うともう生えては来ません。食べることは生きることと直結しており、歯は健康の為には大切な身体の一部です。保険診療で十分とお考えの方も、ご自身の治療に使われる素材のメリットとデメリットをよく知って、天然の歯が出来るだけ長持ちする治療を選んでいただきたいと思います。