入れ歯で味がしないと感じてしまうと毎日のお食事も楽しくすることができません。入れ歯により味がしない理由は、入れ歯が原因である場合と、入れ歯以外の場合があります。
入れ歯で食べると味がしない理由
味がしない理由は入れ歯が原因というケースをご説明します。味覚には、甘味・酸味・塩味・苦味という基本味覚があります。味を感じるのは味蕾(みらい)という器官で、ほとんどは舌にあり、軟口蓋(なんこうがい)、上顎(じょうがく)の奥にも存在します。
入れ歯で味がしないケース
入れ歯で味がしない場合、口蓋を大きく覆う入れ歯であったこと、材質や装着時の違和感、噛み合わせが合わないなどが原因と考えられます。
味覚を感じる一部が入れ歯で隠れるため
上の歯が全部抜けた状態となり総入れ歯が必要となった治療を例にご説明します。部分入れ歯や総入れ歯などの義歯には、噛み合わせる歯の機能を行う人工歯と、床(しょう)と言われる歯茎のように支える機能があります。部分入れ歯は、歯を失った本数が少ないため床も小さいですが、総入れ歯はお口の口蓋を大きく覆うような設計の入れ歯になります。そのため、上顎の奥に存在する味蕾の機能が弱くなる可能性がありますが、舌に多くの味蕾があるため全く味がしないわけではありません。
噛み合わせが合わず唾液が少ないため
上下の歯の噛み合わせが合わなければ、食べ物をきちんと噛むことができません。咀嚼を多く行うと唾液腺から唾液が分泌されますが、噛めなかったり噛む回数が少なければ唾液の分泌量は減ってしまいます。噛んで小さくした食べ物と唾液が混じることによって食べ物のおいしさを感じられるため、唾液が減少してしまうと、おいしさを感じにくくすることにもつながります。
入れ歯装着の際の感覚が合わないため
保険適用で入れ歯を作製すると安い費用で作製できますが、保険適用は材料が限定されるため、床が厚くなり、人工歯の見た目としても違和感が多いです。患者さんご自身の歯よりも出っ歯に感じられ、装着した口腔内の違和感で嘔吐反射や痛みが出る方、噛むことがつらく感じる方もおられます。
入れ歯の違和感で装着が不快になる場合、入れ歯を作った歯科医院で再度調整してもらいましょう。
入れ歯以外の原因で味がしないケース
入れ歯以外の原因により味がしない場合、加齢や心理的なものによる味覚障害が原因です。
加齢で起きる味覚障害
年齢を重ねると味覚機能や唾液分泌機能など口腔内の状態が低下します。
●全身疾患にかかり服薬しているため味がしない
体の一部を改善する副作用としてお口の中を乾燥させる薬があります。唾液分泌量が服薬中のため減り、口腔内が乾燥し、食べても味を感じられないと医院へ通院する方もおられます。
●舌苔(ぜつたい)が厚すぎて味がしない
口腔内からはがれた粘膜組織、食べかす、常在している細菌などが下の表面に白く舌苔となって付着します。舌をしっかりと動かせば舌苔は除去できますが、寝たきりで流動食の方や、会話をほとんどしないなど口を動かさない方は、舌苔が分厚くなり味蕾を覆うため、味がしないと感じるのです。
心理的な要因による味覚障害
強いストレスが身体にかかってしまう精神的な原因により、味覚障害を起こすことがあります。うつ病などが代表的でそれにかかると、
- 本来の味を感じにくくなってしまう味覚低下
- 食べ物に含まれていない異常な苦味を感じる異味覚
などの味覚障害を起こしてしまいます。
味がしない時は入れ歯を変えるのも一つの方法
味がしないと感じる時には、入れ歯を変えてみるのも一つの方法です。食べ物をおいしく感じるには、温度を感じることも味覚には大切です。飲食物の温かさや冷たさを伝えられ、口蓋を覆う部分も薄く作製できる金属床の入れ歯は、保険適用外の自由診療制の治療となります。保険適用内の義歯に比べて費用は高くなりますが、保険適用内の義歯より味を感じ、装着した際の違和感を減らせるという特徴があります。
- 磁性体と磁石で人工歯と歯肉を接着するマグネットデンチャー
- インプラント手術を行い留め具を付け噛み合わせを安定させるインプラントオーバーデンチャー
- 金属がないため審美性が高く金属アレルギーの方でも行えるノンクラスプデンチャー
- クッション性の高いシリコンで痛みを軽減するシリコーン義歯(当院では取り扱いしておりません)
入れ歯で食べると味がしない原因に関するQ&A
入れ歯で食べると味がしない原因は、入れ歯が口蓋を覆うことで味覚を感じる部分が隠れること、噛み合わせが合わず唾液の分泌が減ること、入れ歯装着時の違和感などがあります。口蓋の大部分を覆う入れ歯は、上顎の奥にある味蕾の感覚を弱める可能性があり、これが味覚に影響を与える原因となります。また、噛み合わせが適切でない場合、十分に咀嚼できず、唾液の分泌が減少することも味覚の減退に繋がります。
入れ歯による味覚障害の改善方法として、入れ歯の種類を変えることが一つの方法です。たとえば、金属床の入れ歯は保険適用外ですが、食べ物の温度を感じやすく、口蓋を覆う部分も薄いため味覚を感じやすいという利点があります。他にもマグネットデンチャーやインプラントオーバーデンチャー、ノンクラスプデンチャーなど、患者さんの状況やニーズに応じた異なる種類の入れ歯を選択することで、味覚の問題を改善できる可能性があります。
加齢による味覚障害は、年齢と共に味覚機能や唾液分泌機能が低下することにより生じます。特に高齢者の場合、全身の健康状態の変化や服薬によっても口腔内が乾燥しやすくなり、これが味覚の低下を引き起こすことがあります。また、舌苔が厚くなりがちな高齢者では、舌苔に覆われた味蕾が味を感じにくくなることもあります。
まとめ
入れ歯を入れて味がしないという方は、入れ歯が原因の場合入れ歯の調整、自費治療の入れ歯を作るのも検討しましょう。入れ歯以外の加齢や心理的な原因であれば、それぞれの医院にて薬の副作用などをしっかりと説明を受けてください。入れ歯のメリット・デメリットが知りたいという患者さんは、歯科医師やスタッフとお気軽に相談されることをおすすめします。
入れ歯による味覚の変化や喪失の原因にはいくつかの要因があります。
1. 入れ歯の物理的な影響
入れ歯の使用は、特に上顎の入れ歯の場合、味覚の知覚に影響を与えることが示されています。研究によると、入れ歯を使用している人々は、特に苦みを感じることが困難であり、塩味、甘味、酸味の知覚にも影響があります。 【Silva et al., 2021】
2. 口腔内の変化による影響
唾液の変化や口腔内の微生物環境の変化も、味覚に影響を与える可能性があります。口腔乾燥症(xerostomia)などの状態は、特に入れ歯を使用する高齢者において、食べ物の味を変えたり、喪失させることがあります。これは、口腔内での唾液の減少や変化が原因であることが多いです。 【Volosova et al., 2022】
これらの研究から、入れ歯の物理的な影響や口腔内環境の変化が、味覚に影響を与える主な原因であることがわかります。特に、上顎の入れ歯を使用することによる味覚知覚の変化が顕著であり、唾液の変化や口腔内の微生物環境の変化も関連している可能性があります。