
「歯を失ってしまった…。しっかり噛めるようにしたいし、見た目も気になる…。」そんな悩みを抱える方にとって、インプラントは魅力的な選択肢のひとつです。天然歯のような見た目と機能を取り戻せるため、多くの方が希望される治療法ですが、実はすべての方に適しているわけではありません。
インプラントは、顎の骨に人工の歯根を埋め込む外科手術を伴う治療です。そのため、お口の状態や全身の健康状態によっては、施術が難しかったり、リスクが高まったりするケースもあります。「せっかく治療を決心したのに、思い通りに進まなかった…」そんな後悔をしないためにも、事前にインプラントが適さないケースをしっかり理解しておくことが大切です。
この記事では、インプラント治療が難しいケースについてご説明し、それぞれのリスクや代替治療の選択肢についてもご紹介します。
成長過程にある若年者

インプラント治療を行うためには、患者さんの顎の骨が完全に成長し、安定している必要があります。成長期の子どもや若年者は、顎骨がまだ発達途中であり、この段階でインプラントを埋入すると、骨の成長によりインプラントの位置がずれたり、不具合が生じるリスクが高まります。
特に10代後半までは顎の成長が続くため、インプラント治療は避けるのが一般的です。具体的には、上下の顎骨が安定する20歳前後まで待つのが望ましいとされています。
この期間中、失った歯を放置すると噛み合わせのバランスが崩れたり、隣接する歯が移動する可能性があります。そのため、一旦はブリッジや入れ歯といった補綴方法を使用し、顎骨の成長が完了した段階で改めてインプラント治療を検討することが推奨されます。また、成長の進行状況は個人差が大きいため、歯科医師による定期的な診察が重要です。
- 成長期の顎骨は未発達で、インプラントの安定性に問題が出る可能性がある。
- 一般的に20歳前後の成長完了後に治療を検討するのが望ましい。
- 仮の補綴方法を用いて成長が完了するまで口腔の機能を維持する。
麻酔治療が困難な方
インプラント治療は外科的手術を伴うため、局所麻酔の使用が不可欠です。しかし、全身的な健康状態や特定の疾患により麻酔の使用が難しい患者さんもいらっしゃいます。例えば、重度の心疾患や呼吸器疾患をお持ちの方は、麻酔によるリスクが高まるため、インプラント治療が適用できない場合があります。このような場合、主治医と歯科医師が連携し、患者さんの全身状態を総合的に評価した上で、他の治療法を検討することが重要です。
また、過去に麻酔薬に対してアレルギー反応を起こした経験がある方も注意が必要です。
- 重度の心疾患や呼吸器疾患を持つ方は麻酔によるリスクが高い。
- 麻酔アレルギーの既往がある場合も注意が必要。
- 全身状態を医科と歯科が連携して評価し、安全な治療法を選択する。
重度の歯周病を有する方

歯周病は歯を支える歯槽骨を破壊する疾患であり、インプラントの成功には健康な骨が不可欠です。重度の歯周病が進行中の場合、インプラントを埋入しても骨との結合が不十分となり、治療の成功率が低下します。そのため、まずは歯周病の治療を優先し、口腔内の健康状態を改善することが求められます。歯周病が安定し、骨の状態が良好であれば、インプラント治療を再検討することが可能となります。
インプラント治療を成功させるためには、健康な歯茎と骨が必要です。 しかし、歯周病が進行していると、以下のような問題が発生します。
インプラントを支える骨が不足する
歯周病は顎の骨を溶かしてしまうため、インプラントをしっかり固定できなくなります。
術後の感染リスクが高まる
歯周病菌がインプラント周囲に感染し、「インプラント周囲炎」を引き起こす可能性があります。
対策としての歯周病治療
- スケーリング・ルートプレーニング:歯垢や歯石を徹底的に除去する。
- フラップ手術:歯茎を切開し、歯周ポケット内の細菌を除去する。
- 生活習慣の改善:正しい歯磨きを行い、歯周病の再発を防ぐ。
歯周病が治ってからでないと、インプラント治療は成功しにくいので、事前のケアが重要です。
その他の全身疾患がある方
インプラントは外科手術を伴う治療です。そのため、全身の健康状態が影響を及ぼします。特に以下のような疾患を持っている患者さんは、インプラント治療が適さない可能性があります。
糖尿病(特にコントロールが不十分な場合)
- 血糖値の管理が不安定だと、傷の治癒が遅くなります。
- 感染症のリスクが高まり、インプラント周囲炎を引き起こす可能性が上がります。
- インプラントが骨と結合する「オッセオインテグレーション」がうまくいかないことがあります。
高血圧
- 血圧が高いと、手術中や術後の合併症のリスクが高まります。
- 血圧のコントロールが不安定な患者さんは、手術時に急激な血圧上昇が起こることもあり、特に注意が必要です。
骨粗しょう症
- 骨が脆くなるため、インプラントがしっかり固定されず、脱落するリスクがあります。
- ビスフォスフォネート製剤を服用している方は、顎骨壊死のリスクも考慮する必要があります。
これらの疾患がある場合でも、適切な管理を行えばインプラントが可能なケースもあります。主治医と相談しながら、安全な治療計画を立てることが重要です。
長期間歯を欠損したまま放置していた方
歯を失った状態を長期間放置すると、周囲の歯や顎骨にさまざまな影響が生じます。欠損部位の隣の歯が空いたスペースに倒れ込んだり、対合する歯が伸びてきたりすることによって、噛み合わせのバランスが崩れる場合があります。また、歯を支える骨である歯槽骨は、歯がない状態で刺激を受けなくなると、次第に吸収され、薄くなってしまいます。
インプラントを適切な位置に埋入するためには、まず矯正治療で歯列を整えたり、骨造成手術で歯槽骨を増やす必要があります。骨造成には、人工骨や患者さん自身の骨を移植する方法があり、インプラントが安定する基盤を作ることが可能です。これらの追加処置は時間や費用がかかるものの、インプラントの成功率を高め、長期間安定して使用するために重要です。
- 欠損部分に隣接する歯が傾いたり、対合歯が伸びてきたりする可能性がある。
- 歯槽骨が吸収されるため、骨造成手術が必要になる場合が多い。
- 矯正治療や骨造成を経て、適切なインプラント位置を確保する。
顎の骨が不足している場合
インプラントは、顎の骨にしっかりと埋め込まれることで安定します。 しかし、骨の量や質が不足していると、インプラントがしっかりと固定されず、治療が難しくなることがあります。
顎の骨が不足する主な原因
歯を失ったまま長期間放置
- 歯を失うと、顎の骨は徐々に吸収され、痩せてしまいます。
- 骨が足りないと、インプラントがしっかりと固定できなくなります。
重度の歯周病
- 歯周病が進行すると、歯を支える骨が溶けてしまいます。
- インプラントを支えるだけの骨が残っていないと、治療が難しくなります。
解決策としての骨造成治療
顎の骨が不足している場合でも、骨を増やす治療を行えばインプラントが可能になるケースがあります。
- GBR(骨再生誘導法):人工の膜を使って骨の再生を促す方法。
- ソケットリフト・サイナスリフト:上顎の骨が足りない場合に、骨を増やす手術。
- 骨移植:他の部位から骨を採取して移植する方法。
これらの処置を行うことで、顎の骨を補強し、インプラントをしっかり固定できるようになります
定期的なメンテナンスが難しい方

インプラントは天然の歯と同様に、定期的なメンテナンスが長期的な成功に不可欠です。しかし、仕事や生活環境などの理由で定期的な通院が難しい方は、インプラント周囲炎などのリスクが高まります。そのため、インプラント治療を受ける前に、定期的なメンテナンスの重要性を理解し、通院計画を立てることが求められます。また、日常の口腔ケアも徹底し、インプラントの健康を維持する努力が必要です。
- 日々のケアと定期的な歯科健診がインプラントの長期的な成功に不可欠。
- 定期通院が難しい場合、インプラント周囲炎などのリスクが高まる。
- メンテナンスの負担が少ない他の治療法を検討することも選択肢。
まとめ
インプラント治療は歯を失った場合の有効な選択肢ですが、全ての方に適用できるわけではありません。上記のようなケースでは、他の補綴方法や治療計画を検討する必要があります。