インプラント

インプラント体はどうして骨と結合して離れないの?

インプラント体はどうして骨と結合して離れないの?

高槻クローバー歯科・矯正歯科 歯科医師 髙野 祐

インプラントの手術で顎の骨に埋め込まれる人工歯根(インプラント体)はチタンで出来ています。チタンには生体親和性といって、骨と結合する性質があります。これについて詳しくご説明します。

チタンの生体親和性って何のこと?

チタンの特徴

人間の体には、外から異物が入ってくると、その物質を自分でないと認識して、体外に追い出す働きが備わっています。例えば、体にトゲやガラスが刺さると、そこに白血球が集まってきて「これは自分自身ではない。非自己である」と認識します。

自分でないことが判明すると、生体はこれを肉芽組織という軟組織で取り囲んで体外へと排除します。これを異物処理反応(機転)といい、ほとんど全ての異物はこのようにして身体から排除され、外部からの侵入者を追い出すことで身体を安全な状態に保っています。

では、インプラント体の場合はどうでしょうか。インプラント体自体は異物なので、体に入ると異物処理反応が生じます。しかしトゲやガラスが刺さったときとは異なった反応が起こります。

インプラント体はチタンという金属でできており、チタンは「生体親和性が高い」という特徴を持っています。生体親和性とは、体になじみやすいことを指します。そのためチタンは医科において人工骨や人工関節に使われており、体内に入れても安心な金属として認識されています。

チタンが骨に埋め込まれると身体はどんな反応をするの?

インプラント模型

インプラント体が顎骨に埋入されると、トゲやガラスが刺さったときと同じように白血球が集まってきて、刺さったものが異物かどうかを識別しようとします。しかし、チタンは生体親和性が高いため、白血球はチタンが自分自身なのか異物なのかを判定できず迷ってしまいます。

そこで、骨の中に入ってきたチタン製のインプラント体が体の他の部分に移動して体を傷つけないように、骨でインプラントの周囲をぐるりと取り囲みます。

これがチタンの異物処理反応です。生体が非自己と認識できないものは周囲の組織(インプラント体の場合は骨)で取り囲み、その後チタンは周囲の骨と結合します。しっかりと結合してしまうと、大きな力を加えて噛んでもびくともしません。

このように、インプラントという治療が成立する最大の理由は、「チタンの生体親和性が高い」という点にあります。インプラント治療は、いわばチタンの生体親和性が高いことだけで成立しているといえるのです。

インプラントの材質としてのチタン

インプラントの材質

インプラントはチタンという金属で出来ています。医療用で人間の体内に埋め込む物質には様々な厳しい条件があります。

  • 人体への毒性がないこと
  • アレルギー反応を起こさないこと
  • 発がん性がないこと
  • 人体との適合性があること
  • 代謝異常を起こさないこと
  • 体内で劣化・磨耗・分解が起こらない安定した物質であること 等々

 

チタンは身体が金属アレルギーなどの拒否反応を起こすことなく骨と結合して固定され、その状態を半永久的に保つことの出来る安全性の高い物質であることがわかっています。チタンインプラントは今日でもインプラントの素材として使われています。

インプラントってどんな治療?

インプラントの構造

歯科治療としてのインプラントは、虫歯や歯周病や事故などで失った歯の顎骨にインプラント体(人工歯根)を埋め込んで、その上に上部構造(被せ物)を装着して失った歯の機能を回復させる治療法です。インプラント体はチタンまたはチタン合金で出来ており、ネジのような形をしています。

チタンとはどんな金属?

チタンは工業製品などに広く使われている金属で、軽く・強く・錆びにくいという特性をもっています。厳しい使用条件や環境のもとでも使える最先端の実用金属です。

チタンのもつ特性に加えて、純チタン・チタン合金としてさらに多くの分野で優れた性質を発揮しており、先端技術に欠かせない物質です。歯科材料の分野では主にインプラント体(人工歯根)として使われています。

チタンがインプラント体として使われるようになるまで

インプラント体

インプラントの素材としてチタンが最適であることが発見される前は、真鍮・銅などが用いられたことがありますが、腐食が早いために人体に悪影響を及ぼすなど、悉く失敗しました。

チタンがインプラント体として最適であるという発見は、1952年にスウェーデンにある大学教授のペル・イングヴァール・ブローネマルク博士によって偶然なされました。博士がうさぎの脛にチタン製の生体顕微鏡を取り付けて観察実験を行っていたときに、チタン製の顕微鏡が骨と結合して外れなくなってしまったことから、チタンと骨の組織が拒否反応を起こさずに結合するということを発見したのです。

ブローネマルク博士はチタンが骨と結合する現象を「オッセオインテグレーション」と名付けました。インプラント治療でチタン製のインプラント体と生体内の骨が、オッセオインテグレーションによって完全に結合するまでにはある程度の期間が必要ですが、生体と結合しやすい性質や形状が研究されてきており、年々その期間は短くて済むようになり、現在では45~60日程度で完全に結合し、上部構造を取り付けることができます。

チタンはインプラント以外では何に使われているの?

チタンは研究開発による製造技術の進歩がコストダウンにつながり、身の回りの品から医療、工業製品に至るまで、多くの分野で使われています。

  1. 電力・海水淡水化プラント・・・タービンブレード、海水淡水化装置、復水器、化学プラント・電解設備など
  2. 化学プラント・電解設備・・・電極、貯蔵槽、配管・バルブ、熱交換器、タンクローリーなど
  3. 自動車・二輪車・・・エンジン部品、サスペンション、マフラーなど
  4. 航空宇宙・・・エンジン部品、ロケット部品、燃料タンク、機体構造材など
  5. プレート式熱交換器・・・石油・天然ガスプラント、発電プラント、船舶、食品加工など
  6. 海洋土木・・・鋼管杭防食カバー、海上橋脚、金具など
  7. 建築・・・屋根材、内外壁、床材など
  8. 医療・・・人工骨、心臓弁、心臓ペースメーカー、手術用器具、インプラントなど
  9. 各種製品・・・メガネフレーム、時計、ゴルフ用品、カメラ、自転車など

日頃はその存在を意識していませんが、実は身の回りに様々なチタン製の製品があります。チタンには毒性がなく、熱にも強いため、チタン製の中華鍋があります。ステンレス性と比べると軽いので使いやすいのが特徴です。

チタンは食器にも使われています。変質しにくいこと、料理の味を変えない、強くて軽い、熱を伝えにくいなどの特性から、アウトドア用の食器に最適です。

また、ピアスやイヤリングやネックレス、ブローチなどのアクセサリーにもチタン製品があります。ネクタイピンやカフスにも使われ、軽くて丈夫なので眼鏡のフレームにも広く使われています。

他には、ゴルフのクラブとしても使われています。他の金属で作られたゴルフクラブと比較すると、良く飛ぶという大きなメリットがあります。

インプラント体が骨と結合する理由に関するQ&A

インプラント体が骨と結合する理由は何ですか?

インプラント体が骨と結合する理由は、チタンという材料の生体親和性が高いためです。チタンは体内に入っても異物処理反応が起きにくく、骨との結合が促進されます。この現象をオッセオインテグレーションといい、チタンの特性によってインプラント体が骨にしっかりと固定され、安定した状態で機能を回復させることが可能になります。

チタンはどのような金属ですか?

チタンは軽くて強く、錆びにくい金属です。工業製品などさまざまな分野で広く使われています。特にチタンの優れた特性は、厳しい使用条件や環境においても優れた性能を発揮することです。また、純チタンやチタン合金としてさらに多くの分野で優れた性質を発揮しており、先端技術に欠かせない素材となっています。歯科材料の分野では、その生体親和性や耐蝕性の高さから、インプラント治療における人工歯根として広く使用されています。

チタンの生体親和性とは何ですか?

チタンの生体親和性とは、体内に入っても体が異物と認識せず、骨や組織となじむ性質のことを指します。チタンは人間の体に対してほとんど拒絶反応を起こさず、インプラント体として使用されると骨との結合が生じます。これは異物処理反応とは異なり、チタンが生体にとって安全であり、身体との相性が非常に良いことを示しています。そのため、チタンは医療分野で人工骨や人工関節、そしてインプラント治療における人工歯根として広く使用されています。

まとめ

チタン製のインプラント体が身体の中に埋め込まれても異物と認識されずに骨と結合する理由は、生体親和性が高いから、ということをご説明しました。

インプラントは歯を失った時に、失った歯の機能を補う人工歯根として、大変優れた治療法です。歯を失ったあとの治療を、ブリッジか入れ歯かインプラントかで悩んでいる方は、ぜひ参考にして下さいね。

この記事の監修者
医療法人真摯会 高槻クローバー歯科
院長 髙野 祐

2013年 岡山大学 歯学部卒業。2014年 岡山大学病院臨床研修終了

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高槻クローバー歯科

大阪矯正歯科グループ大阪インプラント総合クリニック